わたしのすみれば


あなたにとって、桜丘すみれば自然庭園とはどんな場所ですか?

 

ここには、親子連れから若者、シニアまで実に様々な人が訪れ、

それぞれの時間を過ごして帰られます。

中には毎日のように通ってくる人もいます。

 

そんなみなさんに、すみればへの想いを寄せていただきました。

 

この場所を訪れる理由、心に残る思い出、すみればへの愛着。

多くの人びとの想いを知ることで、すみればはもっと成長できると思います。

 

あなたにとって、

すみればとはどんな場所ですか?

 


原点。

杉山太一

東京科学大学・研究員

 

 がすみればに関わるようになったのは小学生の1年生のときで、学校で配られていた開園前のワークショップの募集がきっかけであった。そして今では大学で植物の研究をする身になっているのは、ここの観察会や調査に参加したことも遠因になったようにも思う。

 

 本稿に当たって植物の観点からすみればの魅力を考えていたのだが、やはり名前の由来になっている花畑なども現れる広い草地は外せないだろう。チガヤ、ススキ、ツルボ、タケニグサ、キツネアザミなどが繁茂し、草刈り機などで人が手を入れるとスミレやネジバナ、ヒロハハナヤスリが花畑(最後のは花でなく胞子嚢穂だが)を作ったりする。コケ植物も多くはないが耕作地や氾濫原に特徴的なハタケゴケ、ウキゴケ、ツノゴケモドキなどが見られる。

 

 緑地として残されている場所でも、草地というと芝生か休耕田とかが多いので、結構大きな面積の草地をそれとして残してるすみればは面白い。単純な植物マニア的な視点ではすみればはちょっとイマイチなのも否定できない。というのは、ご存知の方も多いはずだが、すみればは旧植村邸庭園が元になっていて、いわゆる里山的雑木林そのものではなく、もとの草地に植栽された“雑木林っぽい”ものだからというのが原因のようにも思う。

 

 旧庭園のコンセプトの武蔵野として狭山丘陵などを歩いたときと較べても、目立つところでもカタクリ、ニリンソウ、テンナンショウ類、キイチゴ類、ネコノメソウといった林床植物はもともとすみればでは見られない。世田谷区内の似たような屋敷林や寺社林と比べて湧水などを有しないすみればの立地はかなり乾燥していて、こういう林床植物は近隣に自生していなかったのだろう。草地の植物の方が断然に豊富ですみればの環境にあっているように見える。私は行動範囲が広がってきてからはすみればから足が遠のいたりもしてきたが、草地のイネ科、カヤツリグサ科、キク科辺りを勉強するのにあらためて通ってみるのもアリかと思ったり…。

 


自然とかかわる喜びを次世代へ。

蔵石 律子

 私は保育の仕事に携わっています。ある時、「保育園で虫といっぱい遊びたい」と言う園児の呟きをきっかけに園庭の一隅に子どもたちと野草を植え原っぱを作りました。野草が根付き昆虫も来るようになると、カマキリがバッタを食べる瞬間に遭遇したり、カマキリの卵から赤ちゃんが出てくる生命誕生を目の当たりにしたり… 乳幼児は自然に触れ様々な発見や予想もしないことに出会いドキドキワクワク心揺さぶられました。この経験を通して身近な自然に触れることは子どもも大人も多くを学ぶかけがえのないことと確信しました。一方、昆虫も野草も分からないことが多く、失敗しては次に活かす試行錯誤しながらの生物体験に自分の知識の無さを痛感しました。

 

 昨年5月、予てから興味があったすみれば自然庭園に訪れました。大樹に囲まれ緑広がる静かな空間は、環8の隣とは思えない別世界でした。中央のクロガネモチの存在感や果樹系の木々が所々にあり、ドングリや松ぼっくりの木、池にはオタマジャクシやトンボが絶対来るだろう、足元の野草や下草に虫が隠れているだろうと次第に高揚し、虫好き生物好きの子にとっての聖地ではないかと感激しました。

 スミレは少し咲いていましたが、以前1000株あったスミレが減少し今増やす為の保全をしていると聞き、私はスミレが満開に咲く光景を見たく、微力ながらお手伝いを始めることにしました。

 

 保全活動では、スミレを守る為に回りの野草を除く、園内の伸びすぎた笹や下草を刈る・除去する等をしています。刈込み鋏や鎌や鋸を使い分けて作業すると良いよ、と使い方を丁寧に教えてもらいました。私はこれらの道具を使用する機会が無かったので、初めての道具が使えて嬉しいです。

 作業を通してたくさんの発見や気づきがあります。スミレと芝の根が細かく絡まっていて、土の中では生存をかけた静かな攻防が繰り広げられているのかと感心しました。つる植物のカニクサは、黄緑色の薄い葉に細い茎なので根っこを引き抜こうとしましたが、なかなか抜けず全力で引っ張っても敵わず、ムキになり根っことの闘いになりました。以前保育園の大根収穫体験で、4歳児が大根を抜く時渾身の力を込めて「大根の根っこと地球と綱引きしてるみたい」と表現していたことを思い出し、この感覚は“カニクサの根と地球の綱引きだ”と一人笑ってしました。このように自分の体験が、かつて心躍らせていた園児の思いと重なることがありそれが心地よく、充実しています。

 

 さて、昆虫や野草は図鑑やネットで調べますが、正確には理解できず迷うことがあります。しかし、すみればの自然観察会では一種ずつ名前や生態や特徴や季節の変化をどう生きているか等、教えてもらえるので、知識ではなく身近な生きものと感じることができます。またすみればは気さくに自然の話しができます。以前ハリガネムシを発見した時、寄生虫と知り気味が悪い印象でしたが、実は川の生態系を守っていると教えてもらいました。どんな生物にも役割がありそれを果たしているから地球が成り立っている、人もその仲間と学びました。

 

 今、地元世田谷でも住宅建設や整備等で足元の緑が減少し、自由な自然環境がどんどん失われています。豊かな自然環境のすみればは生物が生息し鳥も自由に来ます。人はここで気軽に生物と触れ合い、季節の移ろいの中で木や野草がしなやかに変化する様子に気づき、自然を体で感じられる貴重な場です。

 

 ふと思うことがあります。子や孫はどのような原風景を思い描くのだろうか。

自然の中で育った私が自然と関わる喜びを次世代にどのように伝えていけるだろうか、考えてしまいます。


A Special Place : Sumireba Natural Garden

Elena

I started visiting Sumireba Natural Garden with my son when we moved to Sakuragaoka. At first, I didn’t know the history of the park, but I soon discovered the nature center attached to the garden. Inside, there are pictures showing how the park looked in the beginning and how it has transformed over the years.

 

I think it’s a nice garden where you can simply sit on a bench, relax, and enjoy the peaceful sounds of nature. The changing trees and plants throughout the seasons make every visit unique and refreshing.

 

I feel fortunate to have found such a quiet and beautiful garden close to my home. At first, I only visited a couple of times a week, but when spring arrived, I started coming more often. I was amazed at how the park changed with the seasons—new leaves sprouting, flowers blooming, and a fresh energy filling the air.

 

My son quickly fell in love with this place as well. Always curious, he enjoyed exploring and discovering new things. In the beginning, he simply walked around, playing with rocks and leaves. As he grew, he started collecting little treasures—acorns, small pinecones, twigs, colorful fallen leaves in autumn, and bright red berries in winter.

 

During the summer, he became fascinated with insects. The nature center provides insect nets and boxes for children, and I truly appreciated how kind and patient the staff were in explaining the names of the insects he found.

 

Inside the nature center, he loves looking through books about insects and plants. There’s a small kids’ corner with wooden toys, drawing supplies, and puzzles. The walls are always decorated with posters about different animals and plants, which change every season, allowing children to stay engaged and learn something new with each visit.

 

I’m so grateful that my son spent his early years in this park. His curiosity and passion for nature all began here. One day, when I look back, I will remember this special place and how it helped create so many wonderful moments for him—even if he won’t remember them himself as he grows older. In fact, some of the very first Japanese words he learned were the names of things he discovered in the park.

 

A heartfelt thank you to the entire staff for always being so patient and friendly. 


自然がギュッと、贅沢で素敵な場所。

  のりこ

 「桜丘すみれば自然庭園」20周年おめでとうございます!!

「すみれば」に初めて寄せていただいたのは、長女がまだ小学校に入学する前だったと思います。自然がギュっと凝縮された、贅沢で素敵な場所という印象だったと思います。また、掲示されているポスターや広報関連のデザインが洗練され垢抜けていて、さすが東京都世田谷区だなと思った記憶があります。飲食可で冷暖房が効く建物があり、スタッフの方が常駐され管理が行き届いているため、幼い娘を連れていきやすい場所でした。「すみれば」に初めて寄せて頂いてから10年ほど経った頃、砧公園で昆虫調査をされていた方に当時小学4年生の長女が声をかけさせて頂いた事がありました。その方が「すみれば」の方で、それをきっかけに、今では益々「すみれば」に親子でお世話になっています。10年前には予想もしなかった事で、深いご縁を感じています。

 

 私自身の話になりますが、私の地元は世田谷区ではないため、娘の幼稚園や学校以外の方々とお知り合いになる機会は少ないです。ですので「すみれば」は地域の方々と繋がれる大切で大好きな場所の一つです。また、娘にとっては、自然を通し、様々な年代、様々な経験をされている方々と交流させていただける学びの場だと感じています。親だけでは経験させる事ができない、学校や習い事では得られない貴重な体験をさせていただいていると感謝しています。

 

 0歳から100歳以上、どのような年代の方でも楽しめる場所。運営者の方々のアイデアとご尽力によって、自然から芸術まで様々な楽しい体験をできる場所。意外にこのような場所は珍しく貴重なのではないかと思っています。 「すみれば」について語りたい事はたくさんあります。私のボキャブラリーの問題もありますが、言葉だけでは言い表しきれないのが残念です。

 

 地方出身の私にとっては大都会の東京都世田谷区の環八通り沿い。そのような場所にあるにもかかわらず、どこか懐かしい場所。自然に囲まれながら、他には代え難い体験を通し、素敵な時間を過ごせる場所。世代を超えた出会がある場所。それが「わたしのすれば」です。


自分を育ててくれた、すみれば。

堀越 諒

 私にとってのすみればとは、自分を育ててくれた場です。私は中学生のころからすみればに通い始めました。学校には虫や自然が好きな友人はおらず、親しい友人でさえ虫は大の苦手でした。いつも一人で虫取りにでかけていた私ですが、すみればに行けば虫に詳しい先生がいて、傍で虫の扱い方をたくさん教えて下さいました。高校生になった現在でもすみれば自然庭園は私の大切な居場所の一つです。

 

 すみれば自然庭園では毎年夏に子供たちを対象に講師を招いて観察会を開催したり、大学生による演奏会なども開催されます。また、そのようなイベントの有無に関わらず憩いの場としてゆっくりと過ごす方もおり、地域の人にたくさん利用されていると感じています。当園では毎年夏に子供たちを対象に昆虫に詳しい講師を招いて観察会が開催されるため、私もお手伝いとして参加させていただいています。これに参加する子供たちはとても好奇心旺盛で、虫を見て目を輝かせる様子が昔の私と重なります。かつてイベントに参加する立場だった私が、いつの間にか子供たちの好奇心を大切にし世話をする立場になったのだと改めて感じます。最近、都市や地方関係なく自然に興味を持つ子どもが少なくなり、自然に触れる機会も少なくなっています。しかしすみれば自然庭園がこの機会を提供し、学校ではできない経験を与えているため、当園は世田谷区の地域教育の場として重要な役割を果たしています。

 

 これからもすみれば自然庭園が自然を通して地域交流を促進し、世田谷区の中で人にも生き物にも愛される場であり続けられるよう、少しでもお力になりたいと思います。


小宇宙としての、すみれば。

アサノ ミウ

 「あなたにとってのすみれば自然庭園とは」?と意味を尋ねられた時、最初に思い浮かぶのは“こもれび”である。四季折々に花や実をつける野草や樹木は、“こもれび”と一体化したイメージとしてある。

 

 ネイチャーセンターの建物から眺める園の風景は、まるで別荘か幸せな野原に来たような気分にさせてくれる。人っこ一人もいない日もいい。雨の日もいい。虫取り網を持った子供たちが戯れている日もいい。いつもそこには、慈しむべき風情が漂っているのである。

 

 私がここに定期的に通うようになったのは2年ほど前からだ。きっかけは、知り合いがこの園の見守り当番をしていたからという単純な理由からである。それ以来仲間に加わって、今では月に4日ほどここに通ってきている。そうしていると、元来怠け者の私にも見えてくることがある。

 

 朝夕の日課の散歩に通う近隣住民、園内探索にほぼ毎日顔を出す幼児と母、孫連れで時間を過ごす高齢者、学校と塾の合間に虫とりに熱中する小学生。小さなまちの物語が、この小さな場所で繰り広げられているのに気づくのである。そして人間以外に目を向けると、なわばりを主張するキムネクマバチが春に舞い、夏にはオオカマキリが草むらから獲物をねらい、秋にはメジロが柿をついばみ、寒くなるとアズマヒキガエルが石積みの中で冬眠している。この小空間のいたるところで多様な生命が息づいているのである。

 

 ある来園者が「ここは手入れをしすぎてないところがいいのよね」と園路を散策しながら語っていた。いわゆる綺麗とか華やかとは異なる、独自の秩序と美しさがすみれば自然庭園にはある。それは、一言で言うと、わざとらしくない共生の光景とでも言うのだろうか。

 

 葉の間から差し込む光の筋、地表に映るキラキラした陰影、ほっとする陽だまりなど、“こもれび”には慈愛を降り注いでくれるイメージがある。見上げると、木立を通して青い空が広がっている。自然と人が織りなすこんな世界が、自分が暮らす都会の近所の片隅にあることはなんて幸せなんだろう。すみれば自然庭園は、わたしにとって生命の小宇宙を実感できるかけがえのない空間である。